カザン ケバブ
(蒸し焼き鶏)
Mazali!(マザリ/こんにちは)
ディーリャさんのお宅にお邪魔します。
この料理は、「カザン」という厚手の鍋で肉とじゃがいもを香ばしく素揚げし、
その後じっくりと蒸し焼きにして仕上げる、豪快かつ繊細な伝統料理です。
名前の通り、「カザン」は鍋、「ケバブ」は焼いた肉という意味で、
まさに“鍋で作るケバブ”という名の通りの一品です。
このカザンという鍋がとても重要な役割を果たします。
重くて厚みのある鉄鍋は熱伝導に優れ、表面をこんがりと焼き上げつつ、
余熱でゆっくりと中まで火を通すことができます。
そのため、肉はしっとりと柔らかく、じゃがいもはホクホクとした理想的な食感に仕上がるのです。
現地ではこの料理を大鍋で調理し、家族全員や親戚、近所の人々と一緒に食べるのが定番です。
特別なお祝いごとやおもてなしの場面で振る舞われる、まさに“ハレの日のごちそう”。
ひとつの鍋で煮る・焼く・蒸すという複数の調理法をこなすスタイルは、
ウズベキスタンの遊牧文化から生まれた知恵でもあります。
移動の多かった遊牧民にとって、多くの調理器具を持ち運ぶことは現実的ではありません。
だからこそ、1つの鍋で完結できる料理が重宝されたのです。
この料理の魅力は、肉だけではありません。
肉の旨みをたっぷり吸い込んだじゃがいももまた、主役と言えるほどのおいしさ。
新じゃがの季節になると、ウズベキスタンの家庭ではカザンケバブを作るのがひとつの風物詩になっています。
旬の素材を生かすという点でも、この料理はとても合理的で、そして贅沢です。
本場では羊肉や牛肉を使うことが多いですが、今回は手に入りやすい鶏肉で作ってみました。
鶏肉は脂が軽めで、調理時間も短く済むため、家庭で作るにはぴったりです。
手羽元などを使えば、ほどよくジューシーで皮はパリッと、中はほろっとほどけるような食感が楽しめます。
食べ方にも特徴があります。
焼きたてのカザンケバブをナンに包んでかぶりついたり、スライスした生の玉ねぎやトマト、
香草を添えてさっぱりといただくのが現地流。
レモンを絞ってアクセントにするのもおすすめです。
屋外でワイワイ囲んで食べるカザンケバブは、
食事であり、コミュニケーションであり、文化そのものと言えるかもしれません。
この料理を通して感じられるのは、ウズベキスタンの人々の暮らしやおもてなしの心です。
素材を活かし、大切な人と分かち合う温かさ。料理を囲む場面には、自然と笑顔があふれます。
少し手間はかかりますが、一度味わえばその魅力に引き込まれること間違いなしのカザンケバブ。
もし機会があれば、ぜひ挑戦してみてください。
ウズベキスタンの風景が、きっとあなたの食卓にも広がるはずです。

ディーリャAbdullaeva Dilafruzkhon
ウズベキスタンで旅行ガイドを勤めたのちに留学のために2006年に来日し、日本での生活がスタート。料理教室やSNSを通じて、素材を生かした、おいしく健康的なウズベキスタン料理の魅力を伝えています。また、日本人向けにウズベキスタンのフードツアリズムツアーを企画したり、料理教室の動画講座を立ち上げるなど精力的に活動しています。
Recipe
材料(4人分)
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鶏手羽先、手羽中合わせて500g
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コリアンダー(パウダー)小さじ1
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炭酸水2カップ
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じゃがいも(中)5個
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サラダ油1/2カップ
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〈A〉
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大さじ1/2
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小さじ1
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小さじ1
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クミンシード小さじ1
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〈B〉
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ミニトマト1/2パック
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万能ねぎ3本
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イタリアンパセリ、ミント各適量
作り方
- 鶏肉はボールに入れてコリアンダーをふり、炭酸水を回しかけて10~15分置く(こうすると肉が柔らかくなる)。じゃがいもは皮をむき、あれば波型のカッターで縦に6つ~8つ割りに切る。
- 鶏肉の汁気をきり、じゃがいもとともに大きめのボールに入れる。Aのクミンを手でこすり合わせてもんでから、残りのAの材料とともに加え、全体にからめる。
- 大きめの厚手の鍋にサラダ油を強めの中火で熱し、じゃがいもを入れる。全体に香ばしい焼き色がつくまで揚げ焼きにし、バットなどに取り出す。
- ❸の鍋に鶏肉を入れ、同様に焼き色がつくまで揚げ焼きにし、バットなどに取り出す。
- 鍋のサラダ油を大さじ2ほど残してあける。❸のじゃがいも、❹の鶏肉を順に重ね入れ、鍋の周囲から水1/4カップ(50ml)を回し入れる。強火にかけ、煮立ったらふたをして弱火にし、15分ほど蒸し焼きにする(途中汁気がなくなったら水適宜を回し入れる)。
- Bのミニトマトはへたを取る。万能ねぎは長さ5㎝に切る。器に❺を盛り、Bの材料を添える。
